無題
夜の橋に、笛の音が響きわたる。
「こんなところにボールなんていたのかな」
ルーマニア帝国は、橋の近くに降り立った。
目の前には、白と黒の縞模様のボールがいた。
「....?鎖国していたはずだが」
「笛の音が気になって」
「そうか....」
彼は大木に寄りかかった。
「名は、」
「ルーマニア帝国」
聞かれたので、返した。
「帝国...?」
「自分の国以外の領土を持っている国のこと」
「....国取り合戦が、世界ではおこっているのだな」
「合戦と言うより戦争かな」
「どっちにしろ安寧の世ではないのだな」
彼はため息をついた。
「平和なのですか?」
「今は危機に直面している」
「なら、なぜここで笛を?」
彼は少し考えていった。
「たまには疲れを癒すのも必要だろう」
「ところで、その危機とは?」
「倒幕だ。」
「とー、ばく?」
「幕府を倒すことだ」
『幕府』という言葉は聞きなれなかった。
ここは、少し遅れている気がした。
でも、一寸だけ平和、みたい。
なんだか、『安寧』の意味がわかってきた気がする。
青い光がさした。
真夜中に突入した。
「ところで、其方は、蝙蝠の羽が生えているが、病でも患っているのか?」
「いえ、生まれ(?)つきですよ。だから、夜にしか行動できない。昼は、傘を差さないと」
「ほう。」
彼の目は、遠くを見ているようだった。
空に目をうつした。
星空が綺麗だった。
煙なんて、無縁の空だった。
きっと、昼はもっと綺麗なのだろう。
なんて考えている自分が不思議だった。
それに、翼のことをからかわないでくれた。
なんだか、彼が特別なボールだと感じるようになった。
「また、来るか」
「ここで笛を吹けば、来ますよ。」
「そうか。」
「滅ぼされないようにしてくださいよ。」
「滅ぼされても消えるわけではない」
其のとき、光が指した。
「朝だ」
「ごめんなさい。帰らなきゃ」
「そうか。また会おう」
「待ってください」
「なんだ」
「名前は?」
彼は、少し間を開けていった。
「江戸幕府だ。」
「ありがとうございます。それでは。」
そのまま、去ることにした。
朝日がきれいだった。
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今日もいつもの笛が聞こえる。
でも、ルーマニア帝国は、現れなかった。
江戸幕府は、初めて寂しさを感じた。
これは、約200年後の今の話であった。
ルーマニア帝国は、植民地がなくなった。
もう、『帝国』と名乗ることはできない。
でも、
でも、
彼の本当の姿は、そこまで変わらなかった。
今でも、二人の話し声が聞こえる。
fin